ギフト-NOVEL2

文字サイズ:





 わたしは中学生になっていた。
「リン、今日一緒に帰ろうよ。駅前に美味しいカフェできたんだってさ。」
「ごめんね、今日は用事があるから……。」
「また病院に行くの?」
「うん、また今度……。」
 そそくさと鞄に物を詰め込み、わたしは教室を出て下駄箱に向かった。
 いつも誘ってくれる友達に悪いと思いつつも、わたしは学校を出て病院へと向かった。

 私立病院、第十一病棟六〇二号室。
 わたしにとっては通い慣れてしまった病院、時間さえあればいつもここに来ていた。
「今日はなにしてるんだろう……。」
 軽くノックし、ゆっくりとドアを開けた。

 カーテンに仕切られた部屋、真っ白な部屋の中。そこには患者がいるベッドがひとつと看護婦さんが一人いた。
 その看護婦さんがわたしの横を通り過ぎて部屋を出て行った。
 部屋の中にはわたしと患者の二人だけ。
(なんて声をかければいいだろう……。)
 話しかけるのには慣れていない、昔はこんなんじゃなかったのに……。
 顔を上げ、ベッドに体を預けて横たわっている患者を見つめる。
 黒い髪に茶色がかった瞳、痩せ細った体に患者用の服を着ている。
 わたしは彼を知っている、でも彼はわたしを知らなかった。

「今日も来たの?」

 突然の呼びかけに思わずハッとしてしまった。
 ずっと外を見ていた彼が私の方を向いていたのだ。
「えっ……う、うん……。」
 呼吸を整え、わたしはベッドの側にある椅子に座った。
「本当に懲りないね、ここに来たって僕はなにもできないんだけど。」
「別に何かしてほしくて来てるわけじゃないもん。」
「じゃあなんのため?」
「言わない、秘密。」
「そう。」
 彼は一言いうと棚からスケッチブックを取り出し絵を描きだした。
 昔から変わってない性格、どうして彼はわたしを忘れてしまったのだろう。
 やはり、病気のせいなのだろうか……。




1 / 2 / 3 /4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12

powered by Quick Homepage Maker 4.81
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional