NOVEL

sigh


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「虹って誰が作ったのか知ってる?」
真っ青な空を彩る橋を指差して少年は言った。
「虹を作ったのは僕さ。何を隠そう、僕は空の神様なんだから」
えへん、と胸を張って少女を見下す。
「本当に、神様なの?」
「そうだよ。だから今すぐ大雨だって降らせるし雷だって落とせる」
雷、という単語で少女は顔を青くさせた。
「やだよ。雷怖いもん。それに神様ならそんな悪戯しないもん」
半分涙目で言い返しながらその様子を少年は笑う。
「じゃあずっと晴れにしてあげる。リンが望むなら、いつだって」
「…本当に?」
「うん。約束する」
その一言でようやく安堵の表情を少女は浮かべた。

「約束だよ?」
「分かってるって」

七色橋のアーチに願って。


*****


「――はぁ…」
本日で何回目かのため息。
俯いきながら公園のブランコに座ったリンは目を伏せた。
またやってしまった。
事あるごとに口から出てくるそれ。
何もリンだって好き好んでついているわけではない。
いつのまにか自然にでているのだ。
何度もこのクセを直そうと努力はしてきた。
けど結局無理だった。
あたしって意思が弱いなぁ…とつくづく思ったものだ。
「なんでだろ…。はぁ……」
またしてもため息。
それに気づいてまたため息。
何度繰り返せばいいのだろう。
つくだけ無駄なものなのに。
それによくいうじゃないか。
『溜息をついた分だけ幸せが零れる』って。
じゃあいっそのこと、


「――幸せと交換してよ」




*****


「こんにちは」
リンの後ろから不思議な声がした。
振り向くと金髪でニカッと笑っている少年。
というか宙に浮いてる。
しかも真っ白な翼までつけて。
「ててて……天使!?」
「まぁそれに近いね」
大声で叫んだリンに動じずよろしくと天使(仮)は手を挙げた。
なんでこんなところにいるんだろ…。
ってか、
「本当にいたんだ…天使って」
「そんなに驚かないでよ」
やれやれと天使は急にリンの手を握った。
「ねぇ、君のため息ちょうだいよ。幸せと変えてあげるから」
「__え?」
呆然とした目で見つめてくるリンに「いいよね」とでもいうように天使は笑いかける。

ため息がなくなる。

違う。

ため息を幸せに変える。

そんなことある訳無い。

「…どうして私なの?」
「それは秘密。僕が君を選んだ。それだけさ」

馬鹿馬鹿しい。

そう言って普通の人なら断るだろう。

けれどもし、叶うのなら。

立ち尽くしたリンの口からひとつ、願いが零れでた。



*****


真っ白な部屋に無機質な音が響く。

「僕はもうすぐ消えちゃうんだ」

唐突に少年はそう言うと部屋と同じくらい白い花に手を伸ばした。

「嘘でしょ?」

ニコリと微笑みながら少女は聞いた。
この少年はいつだって嘘をついた。
それはいつだって少女を笑わせた。

「そうだよね?今回は騙されないよ」

どうだと言わんばかりに自信満々で少年に詰め寄る。

「――うん。そうだね」

少年は言った。

「きっと、そうだよ」



*****


辺り一面に花が咲いた。
両手にはかわいらしいファンシーなぬいぐるみやお菓子や風船。
全部リンのため息からできたものだ。
「さん、はいっ!」
パッと空中からマジシャンのように鳩が現れて羽ばたいた。
「すごい、すごいよ!まるで魔法みたい!」
「リンは、幸せ?」
急に真面目な顔で天使がリンの顔を覗きこんだ。
「うん…」
「ならいいんだ」
少し困ったように天使は笑うと空を指差す。
「見て、リン。」
虹だよ。
そう言った先には綺麗なアーチを描いた七色がかかっていた。
「これも私のため息?」
「いいや。本当に本当の偶然だよ」
そうなんだ、とリンはもう一度首を上げた。

懐かしいな、空を見るなんて。
おまけに虹付き。
こりゃーお得ですねぇ。

…虹?

不意に脳内で映像が流れる。

前も私は虹を見た。
でも一人じゃない。

彼と見た。
彼って?

あの子だ、いつも笑ってて。
嘘つきで。
でも本当は優しくて。

あの子は。




――――――――あの子は誰?




*****


ベッドの上に彼はいた。
「ねぇ、嘘なんでしょ」
少女は彼の右手を取って声をかけた。
「私また騙されちゃった。君って嘘が上手いんだから」

「今度は私が騙してやろうって嘘をいっぱい考えたんだよ」

「それでね、君にね『参りました。リン様』って言わせてやろうって」

「だから、お願いだから、目を覚まして」

既に彼の手は冷たくなっていた。
二度と目覚めることないと分かっていた。

だから。
その手を握って息を吐きかけた。
遠くにいってしまう彼が少しでも寂しくないように。
何度も何度も繰り返して。
必死に暖めようとしたんだ。

「思い出した?」
天使がリンに問い掛ける。
その顔は大粒の涙ですっかり濡れていた。

「リン、お願いだから聞いて。君のそれはため息じゃない。
僕を暖めようとしてくれた、優しい風なんだ」
「ごっ…めん……ね…!私、君のこと…っ……忘れちゃって」

「いいんだ。僕を忘れても。でもね、リンには笑っててほしいんだ」
だから、と彼は空に浮かんだ。
「もうため息はおしまい。さぁ、顔をあげて」
そう言うと天使は。
空に溶けて消えていった。

*****


暗転。目を開ける。

青い空がまだ広がっていた。
ずいぶん長い時間がたっていたと思っていたが案外そうでもないらしい。

気がつくとあの小生意気な天使はもういない。
もしかしたら天国に帰ったのかもしれない。

そういえば。
結局最後まで彼に嘘はつけなかった。
最後まで私は騙されっぱなしだった。



馬鹿だなぁ、私。
そう言って、
涙を拭って笑ったんだ。



コメント

hakuran hakuran
あとがきというスライディング土下座!!orz

初めまして。
今回のこの素敵企画に参加させて頂けたHakuranです。
普段からもふもふと作詞やったり小説書いてる奴です(・ω・)
参加するメンバー様が豪華な中に運よく入り込むことができました!!((←おい
鏡音作品の中で「Sigh」は個人的にかなりお気に入りの曲だったので
こうして形にすることができて嬉しいです!!
超☆展☆開なのは気にしないでくだs(((殴

これからも鏡音作品が沢山の人に愛されますように!
2012:9:26
Hakuran
秋の訪れを空で感じながら。

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