NOVEL

女の子はいつだってあざといのです!


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良く晴れた日曜日、行きつけの小さなカフェであたしと親友のミクはお茶をしていた。ファッション誌を広げながら、先程注文したオレンジジュースを飲む。ううん、やっぱり100%は違う!甘味と酸味の絶妙なハーモニー…最高だ…。
あたしが間抜け面をしながらそう思っていると、目の前に座っているミクがふふっと笑った。あたしがどうしたのと言いながら首を傾げれば、彼女は綺麗なエメラルドグリーンの瞳であたしを見ると、なんでもないよと言って微笑んだ。少し納得がいかなかったあたしは頬を膨らませてミクを睨む。しかし彼女はそんなあたしをスルーして開いている雑誌に載っているモデルを指してこの子可愛い!と声を上げた。

「わ、ホント可愛い…!でもこの人も可愛くない?」
「ね、可愛いよね!でも私はこっちの綺麗系の子の方が好きかなあ」
「えぇ~…でも確かに綺麗だなぁ…こっちの子は可愛いけど、なるんならあたしはこんな人になりたいな」
「…確かに。スタイルもかなりいいし…」

じっとモデルを見つめる。本当に美人だ。顔は勿論のこと、プロポーションも抜群。いつかこんな風になりたいなぁなんて思いながらオレンジジュースを再び口に含む。嗚呼、幸せ…そう思いつつふとミクを見ると、片手に握り締めている携帯を見つめながら、額に脂汗を滲ませていた。どうしたのかと思って携帯を覗き込むと、そこにはミクの想い人とピースサインをしながら肩を組んでいるグミの姿があった。そういえば二人はライバルだったっけと思いながら残りのオレンジジュースを啜る。ズズッと少し汚い音をたてながら、グラスの中身は無くなった。しかしあたしの前にはまだ一口した口を付けていないケーキが残っている。新しい飲み物でも頼もうかなとあたしがメニューを取ったと同時にミクは携帯を閉じて溜め息を吐いた。そして彼女を見てきょとんとするあたしに向かって少し悲しそうな顔で微笑んだ。

「リン」
「ん?どしたの」
「…恋は、戦争だね」

それだけあたしに言うと、ミクはぐーっと伸びをしてから頑張るぞー!と声を出して、携帯を弄り始めた。…ミクのせいで一瞬周囲の人の目線が全部こっちに向いたんだけど、本人は気付いていないみたいだ。
携帯を見つめながらカチカチと音をたてて文字を打ったりやらなんやらしているミク。その姿は明らかに恋する乙女って感じで、可愛いなあなんて思うと同時になんだか置いて行かれている感じがして、嗚呼あたしも頑張らなきゃなあなんて考えながら新しく注文したアイスカフェオレを軽く掻き混ぜてから口に含んだ。苦味が強く感じられて、あたしはう゛っと声を漏らした。そして口直しをすべく、殆ど口を付けていなかったフルーツタルトを口にした。甘いはずのタルトでさえも甘いのは口に入れた瞬間だけで、すぐに残っていたカフェオレの苦味がタルトを包み込み、口内を支配した。
あたしは全てをカフェオレのせいにして、むくれっ面でミクをじっと見た。未だに携帯を弄っている彼女に暇ーと漏らせば、彼女は苦笑いをしながら、リンも調べたら?と言って携帯の画面を見せてきた。そのページには「女子必見!好きな男子をおとす方法!」と大きな文字で表示されていた。中にはメイクの方法やらなんやらが書かれていた。その中のひとつにあたしは注目した。

「女子はいつでも…あざとく、あれ…」

ポツリ、あたしはその一文を読み上げた。そしてミクにホームページのタイトルとURLを教えてもらい、自分の携帯でそのサイトまで飛んだ。しかしサイトに飛んだまではよかったけれど、先程ミクから見せてもらったページが何処かわからず、サイト内を彷徨った。ただひとつ、あたしが片想い彼を振り向かせる方法を探すためだけに。




あのカフェでミクに教えてもらったサイト、あたしはそこで彷徨いながらも色んなことを学んだ。少女漫画と現実は違う…見つめてるだけじゃ彼は振り向いてはくれない、星に願うだけじゃ夢のような恋はこないし、叶わない、全ては自分次第だと言うことを。勿論他にも男の子を振り向かせる方法だって沢山学んだ。その中で一番あたしがやりやすかったもの、「女子はいつでもあざとくあれ」を実践することにした。やりやすい理由はと言うと、普段からよく転んだりやらなんやらするからやりやすいっていうただそれだけ(自分で言っててちょっと悲しくなった)。まあそれがきっかけで彼とは仲良くなれたんだけど。
転んだあたしに優しい声で大丈夫?と微笑みながら手を差し延べる彼。あたしは彼にありがとうと言いながら差し延べられた手に自分の手を重ねた。それがきっかけで彼と少しずつ仲良くなっていって、胸の中の好きという感情は友達としての好きではなくなっていた。
そのくらいからだっただろうか、外見を気にするようになったのは。前から気にはかけていたものの、それは服とかアクセサリーとかそういうので、スキンケアとかは怠りがちだった。しかし彼に恋してからは今までの分を取り返すように必死にスキンケアやらなんやらをしていた。でもスキンケアを怠っていたにも関わらずあたしの肌は幸いにもあまり荒れてはおらず、スキンケアをしたことによってもちもちの赤ちゃん肌へと生まれ変わった。その頃くらいにミクには、リン綺麗になったねと言ってもらったことがある。そのとき私は感謝の言葉を述べて微笑んだのだが、そのときにも笑顔が可愛くなったと言ってくれた。そして恋する乙女は可愛くなるんだね、と微笑んだ。あたしはえへへと照れ笑いをしてから、このままずっと想いが届くまで、チャンスが来るまで彼を想い続けようと思った。そうすれば綺麗でいられるし、いつか彼だって振り向いてくれる。そう信じて。




* * *




「ふぎゃあっ!」
「わわわ…!リン、大丈夫?」

ずてん!と廊下で盛大に転んだあたしにおどおどとした顔して話し掛けるミク。あたしはうつぶせの状態からゆっくりと立ち上がろうとした…はずだった。しかし思いの外衝撃は強かったらしくて、あたしは立ち上がることが出来ずにその場にへたりこんだ。するとミクの声を聞いたのか、彼はあたしに駆け寄って来てくれた。ぺたんとへたりこんでいるあたしにあのときのように手を差し延べる彼は心配そうに口を開いた。

「大丈夫か?鏡音」
「あ、ありがと!大丈夫だよ!あたし、何もないところとかでよく転ぶからさぁ~、慣れちゃってるよ。心配ありがとうっ」

ニコリと微笑んだあたしを彼は手を取って優しく立ち上がらせると、そうかと言って優しく安堵の笑みを零した。そしてぽんぽんとあたしの頭を撫でて、彼は教科書を持って歩き出した。
ミクが転んだ拍子にぶちまけて散らばっていた教科書類を拾って持ってきてくれたため、それを受け取ってから早く行こ!と言って駆け出した。すると先程歩き出した彼にどんっと顔面衝突をした。むせたのか彼はゲホゲホと咳をした。

「ってて…。お前本当ドジだよな、大丈夫か?」
「あたしは大丈夫だよ!でも、」
「俺なら平気だから。むせて咳したくらいだからさ」
おでこを摩りながら笑顔で答えると彼はもうドジんなよと言って笑顔で走り去った。ぽーっと彼の後ろ姿を見つめていると、あたしの名を呼ぶ澄んだ声と共にトンと肩を叩かれて振り返る。そこには呆れ顔をしたミクがいた。ミクは溜め息を吐くと、まだ五分あるからゆっくり行こうとあたしの頭を撫でた。焦りは禁物だよ、リンはただでさえドジなんだからとあたしに言うとミクは音楽室に向けて歩き出した。次は音楽。あたしの大好きな時間、そして―彼に一番近付ける時間。




先生に指定された教科書のページを開く。そこに書いてある曲はあたしの得意な曲で、先生が歌いはじめた瞬間にあたしは先日の席替えで横になった彼にそっと耳打ちをした。

「あたしこの曲得意なんだ。よく聞いててね」

ウインクをしながらそういえば、彼はこくりと頷いてくれた。そして皆で一斉に歌うとき、あたしは誰にも負けないくらい大きく澄んだ声で歌った。隣を盗み見ると、彼は自分も歌いながらもあたしの歌を聞いてくれているようだった。すると不意に彼と目が合う。ふわりと微笑んだ彼に少し頬を赤らめながら、あたしは教科書で顔を隠しながら、全力で歌い続けた。

授業が終わり、さて帰ろうかと荷物を纏めていると、頭に優しい感覚。きっと彼だろうなと思いながら、どうしたのと話し掛けると、彼はよかったよと言ってニッと笑った。あたしは嬉しさのあまり彼にぎゅうっと抱き着いた。顔を赤くしながら放せ放せと暴れる彼にスキンシップだよーなんて言って少し力を強めてみる。そして大胆にも彼の頬にちゅっとキスをして、いつものお礼!と言って耳まで真っ赤にした彼を置いて廊下に駆け足で出て行った。

「リン、顔真っ赤だよ」
「ミクの馬鹿あ!わかってるよぅ!」

ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべながらあたしに話し掛けて来たミクに真っ赤な顔のまま返すと、彼女はやっぱり実行したんだねと吹き出した。何を実行したかというと、昼休みにたまたま例のホームページを見たときに書いてあったことだ。
恋の神様と呼ばれる、その人は桃色のさらさらつやつやした髪に大きな胸を持ち合わせたとても綺麗な人だった。正にモテ女を絵にしたような人が胸元のばっくり開いた、あたしやミクはとてもじゃないけど着れない…着たとしても絶対に似合わないようなセクシーな服を着て、こう言っていたのだ。
ただ待っているだけじゃ奇跡なんて起きやしない、自分から行動しないと彼は動いてはくれないぞと。だから動いてみた、ただそれだけ。しかし帰宅したあたしは音楽室での行動を思い出し、枕に顔を埋めた。

「明日…どうしよう」

彼とは今、とてつもなく気まずい。にも関わらず、明日はまた音楽がある。しかも今はペアで歌を練習しているから、彼とは是が非でも喋らなくてはいけない。
どうしようどうしようと思いながら、ばふばふと足をばたつかせる。すると、下からお風呂入っちゃいなさーいというお母さんの声がして、あたしははーいと返事を返した。着替えを持ち、お気に入りの入浴剤を取ると、お風呂でゆっくり考えようと思い、タンタンと階段を降りた。

全身を洗い終わり、お風呂のお湯にサラサラと入浴剤を投入する。柑橘系の爽やかな香りが鼻をくすぐる。あたしはいい香りだなあと思いながらお湯を軽く掻き混ぜて、湯舟に体を沈めた。

「ふぅ…とりあえず」

何事もなかったように、いつも通り話し掛けようかなあなんて考えが頭を巡る。だけど彼の方から話し掛けてくれたりしてなんて淡い期待が浮かぶ。でもあんなに顔真っ赤じゃ望み薄かな。
じゃぷっと口辺りまで湯舟に沈めて、ぶくぶくと泡を作った。そして頭まで湯舟に浸かり、勢いよく立ち上がった。

「明日もいつも通りでいこう!」

立ち上がったあたしからは大好きな香りが漂っていた。




* * *




大好きな音楽の時間、昨日の決意とは裏腹に、あたしは彼に話し掛けずにいた。ぎゅっとスカートを握り締め、いつもは彼を盗み見たりするのに、それも一切せずに教科書を見つめていた。
そうこうしているうちにペア練習の時間になり、彼はあたしに声を掛けた。

「鏡音、練習すんぞ」
「き、昨日は…ごめんね」
「…は、なんだよ…いきなり」

あたしがへらりと笑いながら彼に言うと、彼は少し頬を朱に染めながらおろおろしだした。こんな状況でも一番後ろの死角の席だから先生にバレることはなく、怒られない。それをいいことにあたしはどんどんと話を進めていく。
本当は引っ込み思案なこと、このキャラはクラスに溶け込むために無理矢理演じていること、事実を知っているのは親友のミクだけだと言うことなど、全部全部洗いざらい話した。…まあこの話しが嘘なんだけどね。
そして彼のカーディガンの裾を掴んで、上目遣いで彼を見つめながら、あたしは言った。

「本当の…ありのままのあたしを、嫌いにならないで…?」

そういうと、あたしは彼に抱き着き、そのまま彼の胸に顔を埋めた。瞬間、彼は固まった。周りのみんなは真剣に練習をしているため、全く気付かない。さあどうするかなとあたしが彼に抱き着いたまま待っていると、頭に男の子らしいゴツゴツした手の平の感触。ゆっくりと顔を上げると、優しく微笑んでいる彼。思わずきょとんとした顔をしてしまったあたしを彼は優しく抱きしめた。

「馬ー鹿。鏡音のこと、嫌いになんてなるわけないだろ!」

そういってニッと歯を見せていつも通り笑う彼に、少し期待してもいいのかななんて思いつつ、あたしは彼から離れた。そして、彼に向かってありがとうと微笑んでから言った。

「なーんてね!冗談だよっ」

あたしは星の飛びそうなくらい明るい口調で言うと、ぱちんとウインクをして、練習しよー!と楽譜を取り出した。あたしの言葉を聞いた彼はぽかんとした表情をした後、顔を真っ赤にしてから楽譜を取り出し、心配したのに…と呟いていた。あたしはその言葉に、期待してもいいのかなと少しだけ胸を弾ませた。




* * *




あの日から、あたしは彼が脈アリだと、期待していいとわかって、アプローチをしまくった。彼は少し戸惑いながらもそれを受け止めてくれている。あたしのことを好きなのかはわかんないけど、絶対に振り向かせる、彼と付き合ってみせる。イチャイチャラブラブあっまあまなデートをしてみせるんだ!ミクももう一息らしいし、ダブルデートとか…なんて妄想を膨らませながら、彼の頬にキスをする。最近は日課になったほっぺちゅー、先日はあんなに顔真っ赤にさせてたのにな、なんて思いながら彼の腕に絡みつき、耳元でそっと囁いた。

「絶対振り向かせてあげるからね!」



コメント

狼歌 狼歌
この小説は、とても楽しく書かせていただくことができました!
私には曲内のリンちゃんの可愛さ、あざとさを表現できていたかはわかりませんが、できていたら幸いです。
それにしてもこの曲のリンちゃんは本当にあざと可愛いですね。自分の小説でこの可愛さが伝わるのかが不安です。でも鏡音大好きな皆さんになら、私の心中にある表現し切れなかった可愛さが伝わると信じています。日本語迷子ですいません。
リンちゃんとミクさんが片思いしてる人は私の中では決めているんですが、皆さんの中で想像して下さって構いません。自分に当てはめるもアリ、リンちゃんミクさんの好きな人なんてアイツしかいないだろうって思ってる方はその男の子を当てはめるもアリです。どうぞお好きに!
では、長々とすいませんでした!いいな、好きだなとかリンちゃん可愛かった!とか少しでも思って頂けていれば幸いです。

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